書籍レビュー「熟柿」佐藤正午 (著)

ジャンル:日本文学
発売日 :2025/3/27
一気読み:★★★★★
謎解き :★★★
共 感 :★★★★★
リアル :★★★★
ユーモア:★
文 学 :★★★★
ホラー :★
涙   :★★★★

あらすじ

雨の夜道、死亡事故を起こしてしまった主人公は、獄中で子を出産します。

出所後も、子に会えず子を想い一人暮らす日々。世間の風は気まぐれに風向きを変え、やるせない日常と変えられない過去と、母として一途の願いを秘めて物語は進みます。

あの日の夜、それは本当に変わらない過去なのか…

感想

第20回中央公論文芸賞 受賞
本の雑誌が選ぶ2025年度上半期 ベスト10 1位

輝かしい評価がこの小説の面白さを保証しています。

洗練された文章と、淀みないストーリー。ただ流れゆく一人の女性の人生から目を離せなくなります。彼女に幸せは訪れるのか?その資格はあるのか?

生きていく希望など見いだせない現実であっても、人は何かを礎にして生活をする。心の奥に秘めた「何か」は、誰にも気付かれないとしても、実を結ばないとしても、彼女の人生を彩る。

途方もない切なさに辛くなるかもしれませんけど、悲しいばかりの小説ではない。

ページをめくる手が止まらないのは、誰もが抱く幸せへの渇望なのかもしれません。

読みながらふと思ったのですが、この小説の着想を得たと思われる書籍を読んだことがあります。その本とは「ある行旅死亡人の物語」というルポルタージュです。

孤独死した老女の部屋に現金3400万円が残されていた。そのお金はどうやって手に入れたのか?何故、残されているのか?そして、老女は誰なのか?

取材記者が老女の謎を追って取材を進めていき、現実の世界に漫然とある深い謎を解き明かしていくルポルタージュです。

作家が着想を得ただろうというのは、ただの思い違いの可能性もありますし、どこかですでに知られている周知の事実かもしれせん。

本当のところは不明です。しかし、どちらの物語にも同じような名前の子供が登場します。そして老女が残した現金3400万円は、その子のための現金3400万円だと想像すると、二つの本の主人公が重なって見えてきます。

もちろん、それぞれの書籍のオチは相違していますし、メインテーマや詳細も重ならないのですが、一人の女性が生きた物語を小説家が見事に昇華させてくれました。

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